インプラント治療は歯科医師であれば実施可能ですが、実際に適正な治療を行うには外科手術の経験や素材に関する知識など総合的な知見が必要です。そのため厚生労働省や日本口腔インプラント学会ではインプラントの治療方針を策定し、信頼できる歯科医師の選定やクリニック選びの指標としています。
日本歯科医学会が策定した「歯科インプラント治療指針」によれば、実施体制の要件としてまず「口腔インプラント学に関する知識と技術を有していること」が定められています。
当然ながら無知や未経験の歯科医師はリスクが増大するため、患者としてもきちんと歯科医師の実績や専門を確認することが大切です。
インプラント治療は外科手術を伴うため、どれだけ安全管理に配慮していても、やはり思いがけない合併症や事故といったトラブルのリスクが常にあります。そのため非常事態に備えて地域の医療機関ときちんと連絡網を構築し、緊急時に適切な対応を行える診療体制が欠かせません。
インプラント治療中に事故が発生した場合、必然的に1次対応の役目を担うのは治療を担当している歯科医師です。そのため歯科インプラント治療指針ではインプラント治療を担当する医師に対して救命救急に関する研修を受けるように定めています。
医療安全管理体制は全ての医療機関において確保が求められており、個人クリニックのような小規模の医療機関でもその必要性に変わりありません。
思いがけない医療事故を可能な限り防いで、また発生時の被害を最小限に抑えられるように、患者のバイタルサインを常に把握するための医療設備や医療機器を導入し、その取り扱い方にも習熟していなければなりません。なお、特に静脈内鎮静法を併用する医療機関では、麻酔剤についても厳格かつ適正な管理が求められます。
インプラント治療に伴う外科治療は原則として手術室や清潔な個室で実施されることが望ましいものの、対応が困難な場合には他の患者の立ち入りを制限するといった感染予防対策が必要です。
また手術に使う機器や装置についても十分な滅菌処理が行われ、術野に関しても適切な消毒を行います。その他、インプラント体の管理についても熟知していることが条件です。
インプラント治療を安全に実施するためには歯科医師の取り組みだけでなく、患者の協力も欠かすことができません。そのため歯科医師と患者がしっかりと共通認識を備えて治療へ向き合えるよう、口腔インプラント学会が作成したチェックリストに準拠した「インプラント治療のためのチェックリスト」を歯科医師が作成し、患者との情報共有を適正化することが必要です。